住宅基礎仕上げとは
about基礎中性化抑制の必要性
基礎コンクリートの耐久性を低下させる劣化は、以下の3段階で構成されています。
「コンクリートのひび割れ」「コンクリートの中性化」「鉄筋の腐食」
コンクリートの表面、特にひび割れから外部の二酸化炭素が取り込まれ、コンクリートの中性化が進行し、基礎部分に入っている鉄筋の腐食が発生します。
こうしたメカニズムを正しく理解し、できるところから対策をはじめることで、基礎の耐久性を高め、家の寿命を伸ばすことができます。
目次
基礎コンクリートの性質
住宅の基礎コンクリートには、強度を強化するためにコンクリートの中に鉄筋が入っています。
コンクリートには、圧縮に強く、引っ張りに弱い特性があります。この特性を補うために、引っ張りに強い鉄筋を使うことで、大きな地震にも耐えうる強度が生まれます。
ところがこの構造には、弱点があります。それは乾燥収縮によるコンクリートのひび割れと二酸化炭素によるコンクリートの中性化により、中心部にある鉄筋の腐食が起きてしまう点です。鉄筋は腐食すると、膨張が起きます。するとその力でコンクリートの剥離が起こり、基礎コンクリートの寿命はそこで終わってしまいます。
鉄筋コンクリートの劣化状態の推移
コンクリートは、強アルカリ性の性質持っています。これはコンクリートの原材料であるセメントの中に強アルカリ性である水酸化カルシウムが含まれているためです。
ところが水酸化カルシウムは二酸化炭素に触れると、中性である炭酸カルシウムと水に変換されてしまい、強アルカリ性から少しずつ酸性に傾く中性化が進みます。
鉄筋は、アルカリの環境下では鉄筋をさびから守ってくれる「不動態被膜」に保護されています。ところがコンクリートの中性化が進むとこの被膜が消失し、水と酸素の影響で簡単に腐食が起きやすくなってしまいます。
コンクリートが固まる過程でヘアークラックが発生すると、空気中の二酸化炭素と接する表面積が増え、コンクリートの中性化の進行が速まり、膨張した鉄筋がコンクリートを押し出す現象が起きます。
これを防止するために、コンクリートの外側に防水性や遮断性に優れた「弾性ポリマーセメントモルタル」で基礎仕上げを施工するほか、より住宅基礎の寿命を延ばすためには、基礎の内側からも保護をして中性化を抑制することがポイントとなってきます。
高耐久な基礎コンクリートの条件とは
01
ひび割れが生じにくいこと
02
中性化が進みにくいこと
03
鉄筋がさびにくいこと
01 ひび割れが生じにくいこと
コンクリートのひび割れ
ヘアークラック
コンクリートに生じるひび割れには、2種類あります。1つ目は構造クラックで、建築物の壁や基礎部分に生じるひび割れの一種です。構造クラックは建物の安全性に影響を及ぼす危険性があるため、発生したら修繕が必要です。
2つ目は、コンクリートから水分が抜ける際の収縮により引き起こされる微細なクラック(ヘアークラック)です。ヘアークラックはすぐに構造の強度に影響を与えるわけではないため、これまで軽視されてきました。
しかし、ヘアークラックが生じたコンクリートは表面積が広がることで、二酸化炭素の接触が増大します。その結果中性化が促進され、基礎の寿命を縮める原因となるので放置は禁物です。
02 中性化が進みにくいこと
中性化を遅らせる方法として、以下3種類が挙げられます。
①強いコンクリートを使用する。
②かぶり厚さを大きくする。(鉄筋までの距離を延ばす。)
③仕上げ材で保護する。
①強いコンクリートを使用する。
コンクリート強度を上げるには、セメントの割合を増やす必要があります。コンクリートの主成分はセメント・砂・砂利・水ですが、セメントの割合が高まるとセメントの硬化成分が相対的に増加し、より緻密なコンクリートが形成されます。するとセメントに細かい空気の隙間が少なくなり、強度が増すわけです。
ところがコンクリートのセメントを増やすと、粘度が増して流動性が悪化します。すると建設現場での作業効率が悪化し、コンクリートの充填不足や作業時間が増えることにつながってしまいます。そのため、「単純にセメントを増やすことは難しい」というのが現状です。
②かぶり厚さを大きくする
かぶり厚さ … 部材のもっとも外側に配置された鉄筋からコンクリート表面までの厚みのことをいう。
2つ目は、コンクリートの表面から鉄筋までの幅を広くする「かぶり厚さ」を大きくする方法です。
かぶり厚さが増すことにより、中性化が鉄筋に到達するまでの時間を延ばすことができます。
かぶり厚さを大きくするデメリットには、使用するコンクリートの量が増える点が挙げられます。材料が増えればコストアップにつながり、施主である消費者の負担が増えます。 さらに、セメントを製造過程で多くの二酸化炭素が発生するため、できるだけコンクリート容量は少なくすることが望ましいです。以上の理由から、かぶり厚さを大きくする方法には様々な問題があります。
耐久性上 必要なかぶり厚さ |
腐食環境において、計画供用期間中に中性化が鉄筋位置まで達しないよう定める必要がある 直接土に接する基礎立上り部:50mm以上 基礎(布基礎の立上り部分を除く):70mm以上 |
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出典:JASS5 ※より
③仕上げ材で保護する。
一般的な外装仕上げとして、タイル張り・モルタル刷毛仕上げ・弾性ポリマーセメントモルタルの施工などが挙げられます。それぞれのメリット / デメリットを考えてみましょう。
〈タイル張り〉
〇中性化抑制効果がある
◎デザインの選択肢が多い
×コストが高い
×施工に専門的な技術が必要
×修繕にコストと手間がかかる
〈モルタル刷毛引き仕上げ〉
〇コストが安い
◎補修が容易
×中性化抑制効果が低い
×デザインの選択肢がない
×施工に専門的な技術が必要
×経年劣化による汚れが目立つ
〈弾性ポリマーセメントモルタル〉
◎中性化抑制効果が高い
◎補修が容易
〇経年劣化による汚れが目立ちにくい
〇タイルに比べてコストが安い
コンクリートの中性化を防ぐための外装仕上げ材は、中性化の進行を60%以下に抑えられるものについてのみ耐久性上有効な仕上げ材とみなすことが、建築工事標準仕様書のJASS5※にて規定されています。
JASS5とは?
日本建築学会が作成する建築工事標準仕様書(JASS)内の、鉄筋コンクリート工事標準仕様書のことを指します。
2022年11月の大幅な改定により、鉄筋コンクリート造の構造物と、一般住宅の基礎コンクリートに同等の耐久性が推奨されるようになりました。
これまでは、一般木造住宅には基礎部分にのみ鉄筋コンクリートを使用しており、約30年の耐用年数が指標とされてきました。しかし改訂により約65年の耐用年数が求められることとなりました。
中性化率
中性化率とは、コンクリート表面に仕上げを施すことにより、どれだけ中性化を抑制できるかの割合を数値化したものです。
ある強度のコンクリートを一定条件で一定期間養生したときの中性化の深さを100%としたとき、同じ強度のコンクリートに仕上げ材を塗布し、同じ条件で養生した時の中性化深さが何%になるかを計測して算出します。
中性化抑制効果の確認方法
コンクリート棒(100㎜×100㎜×400㎜)を、二酸化炭素濃度を大気の約125倍にした、恒温恒湿環境下※₁に置き、中性化進行具合を測定します。
測定するためには、養生後のコンクリート棒の断面にアルカリ性の検出に使われている試薬フェノールフタレイン溶液を塗布します。この時赤紫色になる部分はアルカリ性が残っている部分で、無色の部分は中性化している領域です。(写真参照)
※₁ 温度20℃±2℃、相対湿度60%±5%。
処理なし
仕上げ材塗布
弾性ポリマーセメントモルタルは、JASS5で規定されている条件をクリアしています。